理論社

2020.06.15更新

自分の道を見つけたい! 第4回

熱く語りたくなるのをぐっと抑えて…… なにも言わずに見守る技術とは

大堀貴士さん(シュート) 大堀貴士さん
(シュート)
内に閉じこもるタイプの子の気持ちが分かるようになったのは、ハーモニィの寄宿塾に来てからやなあ。 オレ、ヤンチャなタイプの子と接するのはめっちゃ得意なんよ。そういう子は脱走したりとか騒ぎも起こすんやけど、だーって走って追いかけていって、熱く語りあってわかりあう、みたいなさ。 でも寄宿塾には当然、内向的な子もいっぱい来るわけで。そういうとき、熱い自分のままだと、「背中を押してやろう」とか思ってしまうわけね。
「オレがなんとかしてやらなきゃ」と思ってしまうというのが、それまでのオレやった。「お前も一緒に来いよ、一緒にやろうぜ!」と言いたがる自分がいる。
「相手を変えたい」と思ってしまっててんねんな。
でもヒロさんは、「相手を変えようとしない」という人やった。
すべてにおいて、どんなときも、「うん、うん、それでいいんだよ」と言うねん。
その子のそのままの姿を、そのままで承認する、というのかな。
すると、それを見てるオレは、「あれ? オレ、ちょっとなんか違うんかな?」と思うわけよ。それで「ちょっと待てよ、ちょっと落ちつこうや、オレ」と、自分を落ちつかせようとした。

例えば、不登校の子って、寄宿塾に来たばっかりの頃は、大抵昼夜逆転生活なんよ。もう、日中はずうっと寝てるねん。一ヶ月くらいは朝は起きられへん子もおる。
で、ハーモニィには馬たちがいるから、朝の早い時間にエサをやりに行かないとあかんねんよ。それを寄宿生と一緒にやりたいわけやけど、まあ、まず最初は全然起きてこおへんのよね。
そこでオレの性格だと、朝起きられない子に対して熱く語りたくなってしまうわけ。「馬にはリズムがあって、オレたちが起きてエサやると、こんなふうに応えてくれるよ」といった理屈を言いたがる。「だから一緒に起きようぜ!」と言いたくなってしまう。
でもヒロさんは、「起きても、起きてこなくてもいい」という人やねん。

ハーモニィカレッジでは、朝も夜もなく寝ている子をむりやり起こすことを一切しなかったそうですが、実は私、この逸話がすごく好きなのです。
この「ひたすら寝る」という状態、家で引きこもり状態でこれをやると、親に心配されそうだし、「だらだらしているからダメになるのだ!」なんて怒られそうでもあります。でもこの「ひたすら寝る」という状態って、実はとても大事な時間なのではないか、と思うのです。

私自身、十代の頃は親から「病気じゃないか?」と疑われるくらい、よく寝ていました。自分でも過眠症などのなんらかの障害を疑うほど、起きていられなかったのです。また、三十代を過ぎて精神的にやや辛い状況になった時期にも、眠くて起きていられない状態を迎えました。
あまりに眠る自分を、自堕落な人間だと感じ罪悪感に苛まれていたのですが、ある日人から、「アーティストは寝るのも仕事だよ。睡眠中に夢を見ている間も創作してるんだから」と言われ、パッと目の開く思いがしました。

睡眠には肉体を休息させる以外にも、記憶を整理整頓したり、脳内の老廃物を洗い流すなどの効果があると言われています。眠り過ぎるのももちろん良くないそうですが、極端に心身が疲弊したときは、体がたくさん睡眠を取ることで、修復作業を行うんじゃないかと私は感じます。
芋虫はサナギになって活動停止している間に、一度どろどろの液体状になり、それから蝶の姿になるという劇的な変体を遂げます。子どもであれ大人であれ、眠りつづけて活動停止している時間は、もしかしたら、芋虫からみごとな蝶へと変身するために、必要な時間なのかもしれません。

第4回-1画像
大堀貴士さん(シュート) 大堀貴士さん
(シュート)
それで、朝起きない子が、ある日たまたま起きて来たとするやん。そういうときに、ポロッとヒロさんがこぼすひと言が、重いんよ。
例えば、馬は人間がこの時間に来てエサをくれるんだってことを分かってるからさ、オレらがだんだん馬房に近づいていくと、そわそわ興奮しだして、ヒヒーンっていななきが聞こえだすのね。するとヒロさんがその子に、 「馬は、僕たちのことを信じて待ってるねえ」
と、ひと言だけ、ポロリと言うねん。
そしたらその子は、勝手になにかを受けとめたんやろうなあ。だんだん、エサをやる時間に起きるようになったんよ。
で、毎日じゃないにしても、朝起きるようになってきた子が、今度は馬に乗る練習するようになるやん。そんなある日に、ちょっと上手く乗れた日があったとする。そしたら、そこでまたヒロさんが、 「朝起きてエサをあげてることが、馬にも伝わってると思うよ」
と、ポロリと言うねん。
すると、だんだんその子がやる気を出すようになって、毎朝起きるようになってくる。そうこうする内に、いつの間にか生活のリズムが整っていくんよ。
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