理論社

第13回

2020.10.30更新

自分の道を見つけたい! 第13回 G1さん篇1

人の気持ちを過剰に感じとってしまう性格
いわゆるHSPというやつだったのかもしれない

馬たちの個性のちがいについて聞きながら、G1さんがどんな思いで「みんなとちがう道」に歩みだしたのかをぜひ聞いてみたいと思っていると、G1さんがふいに手をあげて、「ヘーイ!」と誰かにむかって声をかけました。
その人は英語で挨拶を返してきました。満面の笑顔。どうやら日本の方ではないようです。G1さんはカタコトの英語で冗談を言い、ふたりは陽気な笑顔をかわしあっています。

「実は今、スタッフに外国から来て働いている方がたくさんいるんですよ。いちばん多いのはフィリピンの方で、彼もそうなんです」とG1さんは説明してくれました。
このフィリピン人スタッフの方々との関係のお話が、意外にもG1さんが不登校になった理由の一端を解き明かしてくれるところがありました。

G1さん G1さん
ぼくは、今も基本的な性格はこどもの頃と変わってないと思うんですけど、どうも人の気持ちとかを感じ過ぎてしまうところがあるんじゃないかなと思うんですね。
例えばさっき、「おい、そこなにやってんだ!」とかって怒鳴り声がしたでしょ。競馬は危険なスポーツだし、怒鳴り声が飛んでることってよくあるんですけど、ああいう声とか聞くと、すごく気になってしまうタイプなんですよ。
怒ってる人の感情が、ストレートに心に響いて打撃になってしまい、辛くなるというか。

他にも、本音と建前を使いわけて喋らないといけないシーンや、人の裏表の態度とかを、過剰に気にしすぎて、すごく疲れちゃったりするんですよね。
今、話題になってきている、HSPっていうやつなんじゃないかなあって思ってるんですけど。
そういうところが、中学に行けなくなったこととも関係してるのかなあという気がしますね。

で、さっきフィリピン人のスタッフいたでしょう。彼らとは、お国がらの違いもあるし、仕事のことで行き違いが起きたり、揉めたり、ぶつかったりすることもあるんです。で、言い合いになることもあるんだけど、彼ら、切りかえがめっちゃ早いんですよ。
翌日になったら、あれ、昨日あんなに怒ってたのなんだったの? って思うくらい、めっちゃニコニコして話しかけてきたりして(笑)

すごくカラリとしてる。彼らには、良くも悪くも日本人にありがちな裏表を感じないんですよね。
僕の個人的な偏見かもしれませんが、日本人だと、ちょっと揉めたら後々までお互いに根に持ってしまったり、仕事を頼むにしても、打算的に人間関係を見ちゃうようなところってあると思うんですよね。

でも、僕が接しているフィリピンの方の多くは、言い合いになっても次の日にはさっぱりしてるし、彼らには打算や裏表をあまり感じないんですよね。
だからぼくみたいに人の気持ちを感じとり過ぎてしまうタイプの人間にとっては、一緒に仕事しててすごく楽なんですよね。仕事も頼みやすかったりします。
妻にも「あなたフィリピンの人と一緒のほうが楽しそうに仕事してるね」って言われたりして。

日本人の社会って本音と建て前を使いわける事も多く感じるし、みんなと違うことをやったり言ったりすると異常に叩かれたりもする事もあるじゃないですか。学校にもそういう空気があるから、辛くなる子も出てくるんじゃないかなあ。

このあと、育成牧場内を案内してもらっていると、牧場の職員さんがすれ違いざまにG1さんに、「G1くんはフィリピン人スタッフにすごく人望があるねえ。○○くん(フィリピン人スタッフ)が、きみの仕事ならタダでやってもいいって言ってたよ。G1くんの人柄ゆえだよ〜」と話しかけておられました。
どうやらお互いに気が合っているようです。

この話を聞いて、私は「なるほどなあ」と深く納得してしまいました。
実は私は来年に半年以上の長期でフィリピンの中学校や高校にアシスタントティーチャーとして行く予定があり、ネットでフィリピンの方に英語を教えてもらったり、フィリピンについて調べたりしているところだったので、フィリピンの方と接する機会が多かったのです。

私がフィリピンの方に対して抱いていた感想も、G1さんと同じようなものでした。
フィリピンの方って、とてもフレンドリーで優しい方が多いのです。暖かい国だからか、根本的な性格の陽気さが日本人とはちがっている感じがします。
同じアジア人ということもあってか、話していると昔からの友達のような親しさを感じて、くつろいだ気持ちになるのです。
フィリピンで働く日本人の方の話にも、G1さんと同じような話がよく出てきます。仕事の場所などでどれほど意見が食い違ったりしても、切りかえが早く根に持たず、いじわるをしてくるようなこともない……と。

日本の学校や会社だと、ちょっと揉めたことをキッカケに嫌がらせやいじめが始まるなんてことは、あちこちで起きていますよね。そして、そういったことが引き金になって不登校になる子だっていると思います。

日本人とは気質の違うフィリピンの学校では、いじめや不登校はあまりなかったりするんでしょうか? 
それとも、日本とはまた違う形の問題があるのかもしれません。フィリピンに行ったら、ぜひ陽気な気質の国の不登校事情についてたずねてみたいなと思います。 ひょっとしたら、日本の学校に通う人たちに、なにかヒントになるようなことがあるかもしれないな、と感じています。

ちなみに、本連載の「ここいろ編」ではLGBTについて紹介しましたが、フィリピンではLGBTへの理解が進んでいるらしく、学校にもLGBT用のトイレがあったりするそうです。これは日本の学校ではまだほとんど設置されていないものなので、ぜひ日本にも導入されたらいいのになと思います。
2020年の世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数」のランキングによると、フィリピンは世界で16位のジェンダーギャップの少ない国となっています。日本は世界ランキング153ヶ国中、なんと121位です。

日本はさまざまな「生きづらさ」を抱えている国なのかなあと思うとさびしくなってしまいそうですが、日本の良いところもたくさんあるのは間違いないと思います。
その上で、多様な人がのびのび生きられ、自分も個性のままに自由に面白く生きられる世の中になるように、他の国の良いところを参考にできたらいいなと思います。
台湾で活躍しているデジタル担当大臣のオードリー・タンさんは、14歳で学校になじめず中学校を中退し、トランスジェンダーを公表した世界初の閣僚です。
日本の学校の空気に生きづらさを感じている人は、外国のようすを探ってみると、ぐいっとヒントを掴めることがあるかもしれません。

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