理論社

第17回

2021.01.15更新

自分の道を見つけたい! 第17回 G1さん篇5

今回は、不登校児の親の立場としてどんなことを感じ、考えたかをうかがってみたいと思い、G1さんのお父さんにもご登場いただきます。
我が子が不登校になると、本人よりも親のほうが、子を思うあまりに焦ったり不安になったりすることもあると思うのですが、G1さんのお父さんはどんなふうに考え、対処したのかをうかがいたいと思います。

しかしその前に、G1さんの大きな節目ともなった大学時代の体験について聞いてみましょう。高校時代の馬術部ではインターハイ準優勝という成績をあげたG1さんですが、大学時代には挫折を体験することになったとのこと。いったいなにがあったのでしょうか。

G1さん G1さん
大学も馬術部のあるところにスポーツ推薦で進学しました。このときも、1年生のときから全日本の代表選手に選ばれてたんですよ。
でも大学は、高校よりもさらにタテ社会で、暴力がひどいところでした。高校のときは先輩からの暴力だったんですけど、大学は監督の絶対専政という感じで、部活の雰囲気もよいとは言えなかったですね。
ぼくはそういう雰囲気はすごく嫌でしたけど、自分でコントロールできることとできないことというのはあるものなので、半ば諦めてましたね。馬さえ上手く乗れば殴られることも少なくなるので、そうやってなんとか回避してた感じです。

そういうわけで練習は頑張ってたんですけど、2年生の後半あたりで体に故障が出てしまったんです。腰を痛めて、手術するかどうかというけっこう大きい故障で、うまく歩けないくらいになってしまったんですよ。物理的に部活動をすることができなくなってしまいました。

G1さんは中学校を不登校になっても「馬に乗りたい」という一念に引っ張られ、学校に通わなくてもいきいきとした中学生時代を過ごせていました。そんなG1さんにとって「馬に乗ること自体ができなくなる」というのは、相当にショックの大きいできごとだったのではないかと思いました。
しかも、歩くこともままならない状態になるなんて、ひどく落ちこんだんじゃないでしょうか?

G1さん G1さん
そりゃあ、大学1年生から全日本に出てたし、そんなことそうそうあるものじゃないので、周りも「すごいな」と言ってくれてましたから、それがすべてパアになったんで、いったんは落ちこみはしたんですけどね。
でも、めちゃめちゃ酷くメンタルが下がったというよりは、練習ばっかりでかなりスケジュールもタイトな日々だったというのもあって、「ああ、これでちょっとゆっくりできるな」という気持ちも芽生えたんですよね。
ずっと馬のことばっかりやってきたから、ちょっと他のことをやる時間ができたなと考えました。

で、このときに助けてくれたのが、高校でも勉強を教えて助けてくれた友だちだったんです。
「おまえ、そんなずっと家に居てるんだったら、ゲームしながらパソコンの技術習得したら?」と誘ってくれて、オンラインゲームを一緒にしながらゲーム画面を撮影したりして、動画編集の技術を勉強していったんですよ。
もともと楽しくなってくると夢中になって追求するタイプなんで、友だちに助けてもらいながらも、自学自習で他にもいろいろなソフトの操作方法をこのときに勉強しました。

これが、会社を立ち上げて経営者としても出発しだした今に、すごく生きてるんですよね。PR用の動画を自分で撮影して、スタイリッシュで見栄えのよいものにするために、自分でこだわって編集したりしてます。
馬の育成方法についてデータ化したり、経理の仕事についてなども、この時代に自分で身につけた技術がぜんぶ役に立ってます。
大学の授業は興味のあるものしか行かなかったんで、単位はぜんぜん取得できてなかったんですけど、家に引きこもってゲームしながら独学で学んだことが、今の自分をすごく助けてくれてますね。

そんなわけで、大学の授業や試験はまったく頑張ってなかったんで単位がぜんぜん取れてなかったし、馬にも乗れないのに居ても意味ないので、大学は4年生のときに自主退学しました。大学を出てなくても、馬に乗れていれば、将来はなんとかなるだろうと思ってました。

体に関する不安についても、そう深刻になったわけじゃなくて、少し休んだらだんだん動くようになっていく、ということは体感的にわかっていたんで、故障を起こしたことを機会に、「どういうケアをしたらいいのか」「どういう乗り方をしたら、体を痛めないようになるのか」という、体のメンテナンス法や、馬の乗り方の研究のほうに向かいました。
このときに研究したことも、今の仕事ですごく生きています。体の作り方を徹底的に学びましたから。

中学校を不登校になった時期のG1さんを思い出すエピソードだなと感じました。
「おもしろくないのに中学校なんて行く意味ない」という自分の感情に率直にしたがって、学校に行かずダービースタリオンのゲームばっかりしていたおかげで、本物の馬と共に暮らす生活に行き着いた13歳のG1さん。
そのころと同じように、大学生のG1さんも、学校に通う必要には目もくれず、自分が「おもしろい」「追求したい」と感じたものをまっすぐ追いかけます。 そしてそうやって自分の興味を徹底して追いかけた結果が、やっぱり未来の自分を助けてくれる道に繋がってくるという……。

ごく一般的な感覚としては、「大卒」という経歴にこだわって、なんとか要領よく単位取得をこなそうと思ってしまいそうですが、G1さんの場合は、自分にとって不要、価値がない、と感じた項目はばっさりと切り捨てているなと思います。
というよりも、「やろうという考えすら起きない」かのように見えます。

やっぱり誰だって、自分が興味のあること、少しでも好きとか面白いと思うことを無心で追いかけると、のちのちにその「好き」「面白い」に助けられるときが来るんじゃないかな、という気がします。

それにしても、腰を壊して、いちばん大事な「馬に乗る」ということが、将来できなくなるのではという不安に押しつぶされてもおかしくない状況なのに、さっぱりしたポジティブな答えが返ってきて驚きました。
「なんというか、ベースの部分がものすごいタフでポジティブなんでしょうか?」とたずねてみました。
HSPらしき性格が要因で不登校になるという繊細な面もあるのに、ここぞというときにはぐいっとポジティブに転換できる要因はなんなのでしょう?

G1さん G1さん
性格の根本はネガティブだと思います。でも、ふし目ふし目の、そういう落ちた時には、どうするか考えなきゃしかたないっていうんですかね。
人間って、ポジティブの種類にもよると思いますが、ずっとポジティブだとあまり考えなくなるけど、ネガティブだと、なんとかしようとして工夫するとか、考えるようになりますよね。

ぼくがいちばんネガティブだったのは、やっぱり中学校に行けなくなったときですね。どうしたらいいかも分からない状態だった。
そういうときにハーモニィカレッジに出会って、大人たちが信頼して放っておいてくれたことも大きいかなとも思いますね。
完全に自学自習で馬に乗ってて、めちゃくちゃいっぱい失敗もするんだけど、自分で工夫して成功体験を積むことができたから、分かりやすくいうと自信につながったんでしょうね。
失敗をたくさん重ねた中に成功体験があるから、自分で考えて工夫していけば、「なんとかできる」「なんとかなる」と思うことができるようになったというか。
頭だけじゃなく体験でそういうことを理解していったというか。

それと、大学で故障していた時期は人生の強制ストップがかかったわけですけど、今思うと親のおかげというのもすごく大きいですね。だって学生で仕送りもしてもらってるから、一応生きてはいけるわけじゃないですか。
だから、本当の意味でのたいへんさはまだ何もわかってなかったと思いますよ。自分で稼ぐようになってからですよね、ありがたみを痛感したのは。大学を辞めたときも、なんにも言われなかったですから。本当に、生き方にはいっさい口を出さずに見守ってくれました。

G1さんの場合は、先に不登校という挫折体験があり、その後にフリースクールで自学自習の成功体験を積めたことが、さらにそれ以降の困難を乗りこえる底力になっているようです。この底力は、厳しい競馬の世界で仕事を続けていく上でもベースになっているとのこと。
「失敗は成功の母」というトーマス・エジソンの言葉がありますが、G1さんの不登校も、中学生の当時はもしかしたら「失敗」に見えたかもしれませんが、「成功のための母」だったんじゃないかな、とも思えます。
不登校という状態に一度立たされたから、普通とは違う道を選択せざるを得なくなり、その道に進んだからこそ「徹底的な自学自習」という環境に出会えたのですから。

「こんなふうになりたくなかった」という失敗の状況になったときこそ、実はその先の選択肢の中に、「自分にとってはさらに良い選択だったと思える道」が隠れていることって多いように思います。
挫折したときこそ、よーくまわりを見て、「もっといいもの」を見つけるチャンスなのかもしれません。

第17回-1画像

そしてG1さんのお話をうかがっていると、不登校になった当時から、ご両親が徹底して「G1さんの歩く道」について口出しをしなかったようすがうかがえます。
我が子が不登校になったら、心配して居ても立ってもいられない気持ちにもなる親御さんも多いんじゃないかな、とも思います。

「ここいろ編」でお話をうかがった高畑さんや當山さんは、親子間の確執ものり越えてきたケースでした。これは子どもの立場から見て、とても参考になるように思いますが、G1さんのケースでは、親の態度が、子どもが危機に陥ったときの態度として理想的な状態のひとつかもしれないなあと、大人の態度として参考にしたいものがあるように思いました。
そこで、不登校の子の親として、どんなふうに心を保たれていたのかが気になって、G1さんのお父さんにお話をうかがってみました。

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