理論社

第5回

2020.07.01更新

自分の道を見つけたい! 第5回

「みんなからあんなん言われたら、嫌やんなあ」と、女の子の言った言葉を口にするとき、大堀さんの声は涙声になり震えていました。 もし自分が、あっちに行ってもこっちに行っても、気持ち悪いと言われ続けたら……。整理しがたい感情が胸をめぐります。

たーくんを抱きしめたという中学生の女の子は、不登校で寄宿塾にいた子だったそうです。自分も傷ついたから、たーくんの悲しさが分かったのか、たーくんの気持ちが分かるような繊細さがあるから、学校に行けなくなったのかは分かりませんが、辛い思いをした人はその分だけ、まわりの人間まで変える力を発揮するほどの「なにか」を摑むのかもしれないなあ、と私は思いをはせました。

「きっしょー!」と言ってしまった女の子たちもまた、自分が発したその言葉から生まれた体験によって、言葉にならないものを掴みとったのではないでしょうか。そして、その掴みとったものは、きしょいと言われたたーくんの存在なしには、見つけることのできなかったものではないでしょうか。

「互恵」という言葉を、私は思い浮かべました。
「互いに恩恵を与えあう」という意味です。
障害のある子がいると、その場になんらかの波風が起きる、ということは多々あると思います。また「障害」そのものを問題ととらえる習慣が、私たちの社会にはあります。 けれど、障害のある子がいるからこそ、あるいは障害や課題がそこにあるからこそ与えられるもの、養われるなにか、「そうでなければ生まれ得ない、人間の豊かさや深さ」というものがあるように、私は思うのです。
そうして生まれる豊かさや深さとは、ひょっとしたら人の営みそのものにとって、必要不可欠なものなのではないか、とも私は考えます。
  だからこそ「それは在る」のかもしれないな、と。 第5回-2画像 次回はハーモニィカレッジ編の最終回です。運命共同体の同士であり生き方の指針であったヒロさんが亡くなり、大堀さんはハーモニィカレッジの二代目理事長となります。
ぜひお読みいただけますと幸いです。
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