理論社

第11回

2020.10.01更新

自分の道を見つけたい! 第11回 ここいろ篇5

高畑さん(さーちゃん) 高畑さん
(さーちゃん)
その後も学校での状態は良くなりませんでした。教師の仕事って対外的な資料作りとか、事務仕事などの雑務が膨大すぎて、子ども達と向き合うという、肝心なことに取り組む時間を作れなかったんです。
教師になったら、子ども達の可能性の芽を自由にのびのび育てるような、持っている力を引き出すようなことをしたかった。それなのに、個人では雑務を抱え過ぎている上、学校全体も教育委員会の決め事など、対外的なことや規則にばかり目が向きがちで、理想と全く逆の、目の前に生きる子ども達の成長の芽を摘むようなことばかりしているんじゃないか、という気がしていました。

もともと子ども達と一緒に遊ぶ外遊びだけは大好きで、それだけは楽しめてたんですけど、無気力状態が続いて、それすらもだんだん出来なくなっていったある日に、自分のクラスの子が教室で泣いていて騒がしくなっていたんです。教師なら、「どうしたの?」と声かけしないといけない場面なんですが、全く体が動かなくて、ボーゼンと立ってるしかできなかったんです。
「ああ、自分は教師として、もう人前に立てる状態じゃないんだ」と気づいて怖くなりました。資料を作ろうにも、文字が読めなくなって、人の話も聞こえなくなっていました。

そしてとうとう、教師生活3年目のある日に、授業が始まる時間になっても起きられなくて、学校に行けなくなってしまったんです。
プツリと糸が切れてしまったんです。
診断は適応障害で、長期の休暇をもらった後に、結局は退職することになるのですが、休みに入る前後は、死ぬことばかり考える日々を過ごしていました。
ふらふらとベランダの方に行っては、「ここから落ちたら楽になれるなあ」とぼーっと思いながら身をのりだしたりして……。

それで、死にたい死にたいと思いながらも、一方では、やっぱり生きたくて必死な自分がいて、本当の自分を知るために、「心からやりたいこと」と「やりたくないこと」を書き出していったんですね。ずっと、「自分の本音」を言えない人生だったから、その部分を自分で自分に尋ねようと思ったんです。

すると、いちばん強く出て来たことが、「とにかくもう、嘘をつきたくない」ということでした。
同性愛について人に言えないことも、子ども達の芽を摘んでしまう気がする教育をすることも、「本当の自分に嘘をつく」ということを、もう絶対にしたくないと思ったんです。

嘘をつきたくないとはっきり自覚したことから、ようやく両親にカミングアウトをする決心をつけました。
ところが、「自分は女の子が好きなんだ」っていうことは、実はけっこうすぐに言えたんですよ。
父親も「前からなんとなく知ってたよ。どんなさーちゃんでも好きだし、自分らしく生きればいいよ」って言ってくれました。同性愛については、きっと受け入れてくれるだろうなってことは、自分でもなんとなく分かってたんですよね。

それよりも難しかったのは、「子どもの頃からずっとさびしかったんだ」「もっと自分のことを見て欲しかったんだ」という気持ちを伝えることの方でした。
こちらの方が、どうやら私にとっては本丸だったんです。
とても怖くてなかなか言えませんでした。

そのことを伝えた日は、親子三人で抱き合って泣いて、ベッドで一緒に寝ました。
小さな頃からずっと願っていたことが、やっと叶えられた瞬間でした。
「さびしかった」と伝えられたことで、ようやくスーッと何かが晴れていったんですね。
それ以来、「もう自分に嘘をつく生き方はしない」と決めて、思い切ってオープンに、心からやりたいと思うことをやって生きるようになっていきました。
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