株式会社 理論社

くうきラボ 第2回 町はカメラの目でいっぱい

中学生
しつもん
一緒に下校していた友達が、曲がってきた車に接触して転びました。怪我はなかったけれど、車がそのまま行ってしまったのでヒドイ!と思っていたら、家に警察の人がきて「どの車か覚えていますか?」と数枚の防犯カメラの写真を見せられました。犯人が捕まってよかったのですが、それ以来そこを通るたびに「自分も撮られている」と緊張してしまい落ち着きません。

くうき
くうき

ヒドイ車!捕まって良かった〜。けど、通学路で自分も毎日撮影されてるって分かっちゃったんだ。そりゃ落ち着かないわよね。

プロフェッサー・ケンタ
プロフェッサー・ケンタ

いまや町中に「カメラ」が設置されています。
学校でも、正門とか校庭に設置する例も増えているようです。マンションのエレベーターや廊下にも、コンビニの前にも店内にも、電車の改札のそばにも、商店街の電柱にも、あるいは高速道路にのると道の真ん中にも、「カメラ」が設置されています。
それぞれに目的も違うし、その使い方も異なります。

くうき

確かにあちこちでカメラ見るけど、目的っていろいろなの?こんなふうに犯人捕まえるためだと思ってた。
プロフェッサー・ケンタ
「防犯カメラ」というように、「犯罪の予防」と「犯人の検挙」に使われることが一般的といえます。
しかし実際には、24時間映像を記録し続けることによって、誰かを探し出したり特定の人を監視するといった「監視カメラ」の役割も担っているのです。

くうき

そっか。「犯罪をさせない」「犯人を捕まえる」のに使えるってことは「悪いことしてなくてもいつも見張られてる」ってことなんだ。自分たちも。
プロフェッサー・ケンタ
そうそう。カメラは、怪しい人「だけ」を記録しているのではなく、「すべて」の人を記録しているから。
しかも最近のカメラは性能がよくて、顔認識技術を使ってあらかじめ特定の人のデータをインプットしておくと、その人がカメラの前を通るとアラームが鳴る仕組みもあり、監視にもってこいです。最近は、AI技術を駆使して「怪しそうな人」を探し出すことにも使えるようになってきました。

くうき

すごーい。犯人探しには強力な武器ね。
プロフェッサー・ケンタ
だから、街の安全のためにはカメラの設置はいいこと、という空気感があります。そうなると、カメラの設置や運用方法に異議を唱えることは、「何かやましいことをしているのか」と怪しまれるような気がして言いづらい。でも、AIに勝手に怪しい人と判断され、駅の改札で突然止められたりすると思うと、怖くありませんか。

くうき

悪いことしてないのに!?
プロフェッサー・ケンタ
怖いでしょ?「悪いことはしない」と思っていても、「良い悪い」は誰がどう判断するかでも変わっちゃうし。そこで、記録された映像を誰がどのように利用するかが重要になってきます。とりわけ、こうした記録を「国」が意図的に利用した場合、「あなたは横断歩道以外で道を渡りましたね」とか「歩きながら食べたお菓子の包み紙を捨てましたね」といった、普段は問題ならないような理由で捕まえることができたりもします。

くうき

外歩くの怖くなってきちゃった。。。
プロフェッサー・ケンタ
日本の津々浦々にこういうカメラが設置されるということは、調べようと思えば誰が、いつ、どこにいたか、どこに移動したか、調べられるということです。
新幹線の入り口や高速道路に設置されているカメラは「監視」の目的が強く、何時何分にどんな車が通過したか、だれが改札を通過したかを常に記録しておいて、犯罪が起きた時に犯人探しに役立てるのです。でも、それは私たち全員が、どこに行ってもカメラの目によって監視されているということでもあります。

くうき

昨日歩きながら「この道にも防犯カメラあるのかな?」と思ってキョロキョロしたけど、「この様子が写ってたら怪しまれちゃうかも!?」と思ってやめたわ。
プロフェッサー・ケンタ
そのように常に「監視」されていることは、精神的にもとっても窮屈な世の中だよね。だから記録された映像は、どういう時に誰が見ることができるのか、あらかじめ決めておくことが大切です。
たとえばマンションのエレベーターの中のカメラ映像だって、管理人が勝手に見たりYouTubeに上げたら、みんな困るでしょう? 同様に、たとえ警察であっても勝手にみることは認められないということです。きちんと手続きを踏んで、「令状」という裁判所が認めた命令書があるときだけに限定するようなルールを決めておくことが大切です。

くうき

スーパーのセルフレジだって「撮ってますよ。盗ったら捕まるよ。」って言われてるカメラだと思って安心してるけど、考えてみたら誰がどう管理してるか分からないもんね。好物の甘栗爆買いしてるとこ拡散されたらヤダわ〜。
プロフェッサー・ケンタ
もちろん、ネットに勝手に上げれば立派な犯罪行為ですから、そうしたことはめったに起こりませんが、自分が知らないうちに自分の情報が勝手に使われる危険性は常にあります。
それに、こうした行動監視は、カメラだけではありません。皆さんが持っている携帯電話は位置情報を常に発信しているので、電源を入れている限り、どういう行動をとったか電話会社には筒抜けです。しかもその情報を、自治体や政府がもらって活用する時代になっています。

くうき

コロナの時に、街の人出が増えたとか減ったとか言ってたような?
プロフェッサー・ケンタ
そうそう。携帯の位置情報の記録を使ってね。世の中の役に立つからいいよね、となりがちですが、記録には「どこにいたか」「だれと一緒にいたか」などのプライバシーが含まれていますから、その使い方を間違えると個人の監視に繋がってしまいます。僕たちがとても大切にしてきた「自由に移動する権利」や「プライバシー保護」を脅かすことになるのです。
個人の行動情報が全部一か所に集められ、国家によって個人が監視・管理されるという社会が、技術的に実際に生まれつつあるのです。みんなが「まあ仕方ないか」とやり過ごしているうちに、日本もそうならないとは言い切れません。私たちは「自由だ」と思っているけれど、便利さや安全のために失っているものがありそうです。何が本当の自由なのかを考えるきっかけにもなりそうですね。
<プチ情報>防犯カメラの設置については、すでに様々な議論が行われているんだよ。特に都道府県や市町村が設置するときに厳しいルールもあるね。(これは地方自治研究機構ウエブサイトの「防犯カメラに関する条例」のページ)
www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/027_surveillance_camera.htm
少し古いデータだけど、通学路に防犯カメラを設置する動きが一般化していることもわかるよ。(研究者が行った自治体向けのアンケート調査結果)
www.e-jikei.org/survey/Results_Survey_All_944_out_of_1788.pdf
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